ピグマリオン効果と部下の指導【結果が出た! メンタルヘルス研修@福島県須賀川市・郡山市】
「ピグマリオン効果」と呼ばれる心理的な現象をご存じでしょうか。
私は、福島県須賀川市や郡山市を中心に、企業・団体・施設さまのメンタルヘルス対策に関する研修講師を務めています。さまざまな内容の研修がありますが、その一つが「上司から部下への指導法」です。
特に、「ピグマリオン効果」を活用した部下の育成についてお話しすると、「目から鱗でした」「さっそく実践したいと思います」との声をたくさんいただきます。また、実践後に「効果があった!」という喜びの声も。
この記事では、ピグマリオン効果とは何か、そしてそれを活用した指導法とはどういうものかについて解説します。
目次
ピグマリオン効果とは?
ピグマリオン効果とは、教育心理学の用語で、「他の人から肯定的な期待をかけられると、学習や仕事の成果が向上するという現象」を指します。
ある部下について上司が「この人は素晴らしいビジネスパーソンだ」「この人なら、この業務を必ずやり遂げてくれる」と信じると、その通りになりやすいということです。
逆に、「この人は大したことがない」「この人にはこの仕事は無理だ」と信じると、その通りに成安傾向があります(こちらは「ゴーレム効果」と呼びます。
ピグマリオン効果は、ギリシア神話に登場するピュグマリオーンのエピソードに由来しています。
ピュグマリオーンのエピソード
キプロス島の王ピュグマリオーンは優れた為政者でしたが、難点が一つありました。仕事一筋で、女性にまったく興味を示さないのです。
このままでは世継ぎを期待できないと焦った家臣たちは、美の女神であるアフロディーテ(ローマ神話のビーナス)に願いをささげ、ピュグマリオーンに妻を娶るよう命じてもらいました。
女神の命令ですから、ピュグマリオーンも観念して結婚を承諾しました。しかし、彼は次のような条件を女神に伝えました。
「アフロディーテ様。あなた様ほど美しい存在はこの世にありません。私は彫刻家でもありますが、ぜひ美の極致であるあなた様のお姿を彫刻させていただきませんか?」
美の極致と言われて悪い気のしなかったアフロディーテは、快くその願いを受け入れました。そこで、ピュグマリオーンは象牙を彫って美の女神を模した像を彫り上げ、ガラテイアと名付けます。
なんとピュグマリオーンは、このガラテイア像に恋をしてしまいました。像を寝室に置き、服を着せ、食事を用意します。そして「どうか本当の人間になって遅れ」と懇願し続けました。
ついには食事もとらずにガラテイア像に向かって話しかけるようになったピュグマリオーンは、だんだんと衰弱していきます。
見かねたアフロディーテは、ガラテイアに命を吹き込みました。こうしてピュグマリオーンの願い通りにガラテイアは人間となり、彼と結婚しましたとさ。
(ルニョー作「彫刻の起源」1786年。画像引用:feel the art)
ピグマリオン効果を実証した実験
1964年にアメリカの教育心理学者、ロバート・ローゼンタールが行なった小学校での学力テストに関する実験です。
ローゼンタール氏はある小学校を訪れ、画期的な学力テストができたのでモニター校になってもらいたいと依頼しました。その画期的なテストとは、半年後の成績の伸びを正確に把握できるというものです。
子どもたちにテストを受けてもらった後、ローゼンタール氏はクラスごとに何名かの子どもの名前を担任に告げ、「この子たちの成績は爆発的に伸びます」と断言しました。そして、次のように担任に言います。「ただし、子どもたちのやる気に影響を与えないように、この結果については子どもたちには絶対内緒にしてくださいね」。
それから半年後、その子たちの成績は本当に伸びたのでした。
さて、ここからが種明かし。実は、成績が伸びると言われた子どもたち、テストの結果で選ばれたのではなく完全にランダムです。それなのに、どうしてローゼンバーグ氏の予言通りに成績が伸びたのでしょうか。それは、担任が期待したから。すなわち、ピグマリオン効果が発動したからです。
この実験から、ピグマリオン効果は「ローゼンタール効果」とも呼ばれています。
そして、子どもだけでなく、大人にもピグマリオン効果は有効です。
ピグマリオン効果を活用した部下指導のポイント
上司が部下に対して肯定的な評価をし、期待をかけることで、部下はその期待に応えるための努力を自然と行なうようになります。
ただし、ただ期待をかけるだけではうまく結果につながらないこともあります。そこで、この効果をうまく活用するためのポイントを紹介します。
できると宣言する
ピグマリオン効果が発動するためには、上司が本気で「この部下にはできる」と信じている必要があります。
上司が心のどこかで「この部下には無理だろう」といった否定的な思い込みを持っていると、その思いは無意識のうちに言動に表れます。すると、ピグマリオン効果とは逆のゴーレム効果が発動してしまう場合もあります。
もしも、部下の能力や性格について不安を抱いていることに気づいたなら、まず自分自身に向かって「あの部下ならできる」と何度も宣言しましょう。そして、できると信じられる証拠を探してみます。きっと見つかるはずです。
期待の内容を明確に伝える
部下に対する期待は、心で思っているだけでなく、言葉で表現することによりさらなる効果を発揮します。
その際、「あなたならできる」といった抽象的な言い方だけでなく、「この仕事を任せたい。あなたがこの目標を達成してくれると信じているよ」というような、より具体的な表現で伝えます。
それにより部下は「信頼されている」という感覚を得ることができるでしょう。
小さな目標を設定する
部下と目標を共有し、この部下なら目標を達成できると信じることが、ピグマリオン効果を引き出すために不可欠です。
ただし、一度に大きな目標を与えてしまうと、失敗を恐れて萎縮したり、何から手を付けていいか分からず混乱したりして、かえって逆効果です。高い最終目標を設定すること自体は問題ありませんが、その場合には最終目標を段階的に小分けにし、当面の目標を「ちょっとがんばればできる」程度のものにする必要があります。
そして、小さな成功体験を積み重ねていけば、部下は自信を持って「もっとがんばろう」という気持ちになります。そればかりか、上司も「この部下ならできる」とますます信じられるようになって、ピグマリオン効果が強力に働くようになります。
結果についてフィードバックする
指示を与えたり目標を共有したりするときだけでなく、結果を出したときには「それくらいやれて当然」とスルーするのではなく、肯定的なフィードバックを忘れず伝えましょう。それがピグマリオン効果を強化して、他の業務でも結果を残しやすくなります。
フィードバックの際は、「偉いね」というような上から目線のほめ言葉を伝えるより、「君が目標を達成できて、私もうれしい」と一緒に喜んだり、その成功によって会社に貢献してくれたことについて「ありがとう」と感謝したりした方が、よりピグマリオン効果を強化します。
過程についてもフィードバックする
結果を評価するだけでなく、目標達成のために努力している過程でも、折に触れて肯定的な語りかけを行ないましょう。「がんばってるね。期待しているよ」「目標までもう少しだね。うまくやれているよ」など。
失敗や停滞しても否定しない
どんなに期待をかけても、部下が失敗してしまったり目標に届かなかったりすることがあります。また、途中で立ち止まってしまって、なかなか結果を出せないときもあります。そんなときも「何やってるんだ!」と頭ごなしに叱り飛ばすのはやめましょう。
ピグマリオン効果は、相手を信じることから始まりますね? 失敗・停滞したこの部下は「必ず成果を上げるはずの部下」です。そんな部下がうまく結果を残せないのには、必ず「もっともな理由」があるはずです。
部下の話を親身に聞いてその原因を一緒に考え、どんなふうにその原因を取り除けるかアドバイスしたり考えさせたりしましょう。上司の期待し続ける姿勢が、部下の力を引き出します。
マイナスをプラスで挟む
指導者はどうしても相手を叱らなければならないときがあります。そんなときも、マイナスの前後をプラスで挟むようにすると良いです。すると、「叱られたけれど、那央子の上司は自分に期待してくれている」と部下は思えます。
たとえば、
- (+) いつも期限よりずいぶん早く、頼んだ仕事を終わらせてくれて助かっているよ。
- (-) ただ、最近数字のミスが多いように思えるんだ。急いで出すことを意識するのではなく、提出前にもう一度チェックするようにするといいね。
- (+) 君の企画の着眼点はいつも目を見張らされるし、実現までの道筋も明確で読んでいて分かりやすい。だから、これからもいい仕事を期待しているよ。
ピグマリオン効果実践後の感想
受け身の部下が変わった
以前、メンタルヘルス研修の打ち合わせでお話しした企業の課長さんから、「ある部下の仕事ぶりが受け身の姿勢で、自ら考えて行動しないために伸び悩んでいる」との相談を受けました。そこでピグマリオン効果についてお話ししました。
すると、数週間後に再びお目にかかったとき、「あの部下が積極的に仕事に取り組むようになってきた」という報告をいただきました。
叱責中心の指導を改めてみたら
管理職向けのメンタルヘルス研修に、もっぱら部下の足りないところを指摘して叱る方法で指導していた方が参加なさっていました。ピグマリオン効果とゴーレム効果のことを学んだことが、特に大きな衝撃だったようです。そして、ピグマリオン効果を意識した関わり方を心がけるようになさいました。
後日いただいたアンケートには、本当に部下の営業成績が向上してきて驚いたと記されていました。読ませていただいた私も、メンタルヘルス研修を担当させていただいた喜びを感じます。
ピグマリオン効果を企業に取り入れるには?
ピグマリオン効果を、上司個々人の指導法として取り入れるだけでは不十分です。企業全体の「企業文化」として根付かせることが重要です。そのためには、以下の取り組みが有効です。
社内研修の強化
管理職やチームリーダー、さらには一般社員に至るまで、ピグマリオン効果とその活用の仕方について学ぶ機会を設けます。
トップダウンの意識改革
まず経営者や役員から、部下に期待をかけ、それを積極的に伝える姿勢を見せます。
フィードバックの制度化
上司が部下の仕事の進捗を一緒に確認し、肯定的なフィードバック、すなわち励ましや助言を行なうための個別ミーティングを定期的に持つことを、制度として定めます。
表彰制度の改革
優れた業績を上げた社員に対すして表彰することはもちろん、縁の下の力持ちとして支えている人も積極的に見つけ出してほめたたえる制度を作ります。
たとえば営業部では、営業担当者だけが注目を集めがちですが、背後で支える営業事務の人たちがいなければ営業担当者はうまく活躍できません。ですから、営業成績トップの人を表彰する際に、その人を支えた事務の人たちも表彰するのはどうでしょうか。
社内コミュニケーションの活発化
部門を超えた交流の場を設けることで、いろいろな人が支え合って企業の活動が成り立っていることを知り、それぞれがそれぞれの場所でがんばっていることを認め合うことができるようにします。
なお、そのようなオープンな交流が実現するには、心理的安全性(自分の意見や気持ちを安心して表現できると感じられる状態)が担保されていなければなりません。心理的安全性を生み出せるコミュニケーションの取り方についての研修も必要でしょう。
まとめ
私は、須賀川市や郡山市、あるいは福島県内、山形、宮城、栃木など近隣県で、企業・団体・組織のメンタルヘルス研修講師を務めてきました。特に管理職や上司向けの研修では、よくピグマリオン効果についてお話しさせていただきます。
私の行なうメンタルヘルス研修の特長は、座学だけでなくロールプレイなどの演習やワークをたくさん行なうことです。そして、ロールプレイやワークの時間がとても楽しかったとか、観になったとかいう肯定的な感想をよくいただきます。
メンタルヘルス研修の内容は、研修を主催する企業さまに最適な研修内容をご一緒に考え、提案させていただきます。ご興味のある研修担当者さまは、以下の公式サイトからお問い合わせください。
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