【働きながらうつ病を乗り越える】実体験から学ぶサバイバル術
従業員のうつ病は、罹患した個人だけでなく企業全体にも大きな影響を与えます。ですから、経営陣も含めて全社員がうつ病について正しい知識を持ち、個人としてまた組織としての対処法を身につけることが大切です。
この記事では、心理カウンセラーとしてうつ病の患者さんたちと向き合ってきた私が、うつ病を抱えながらも働き続けるための具体的なアドバイスをご紹介します。また、企業としてうつ病の従業員を支えるためのヒントもお届けします。ぜひ最後までお読みください。
目次
うつ病についてよく尋ねられる質問

うつ病について、私がよく尋ねられる質問とその回答を紹介します。
(1) うつ病になるのは心が弱いからですか?
いいえ。心の弱さは関係ありません。うつ病はさまざまな要因が絡み合って起こると考えられています。
たとえば過重労働やパワハラ、モラハラが続くような環境に置かれれば、多くの人が心身の調子を崩してしまい、中にはうつ病を発症する人も出てくるでしょう。
また、認知症、パーキンソン病、糖尿病、統合失調症など他の病気の症状として抑うつ症状が出る場合もあります。
(2) うつ病になりやすいのはどんな性格の人ですか?
うつ病になるのは性格が悪いせいではありません。ただ、以下のような傾向のある人は、自分を追い詰めてストレスを抱えやすく、結果としてうつ病になりやすいと言われています。
- 真面目で責任感が強い……手を抜けずやり過ぎてしまう
- 完璧主義……ちょっとでも不完全な部分が目に付くとストレスを感じる
- 周囲に気を遣いすぎる……自分のつらさを放ったらかしにしがち
- 頑固……自分の価値観や考え、計画に合わない人や物事が受け入れられない
- 自責的……何でも自分のせいだと考えがち
ある程度うつ症状が緩和してきたら、認知行動療法などを用いて、自分を追い詰めがちな考え方や行動の仕方をより自分に優しい生き方に変えていきます。
また、非定型うつ病(いわゆる新型うつ病)と呼ばれるタイプのうつ病の人は、上述のような性格とは逆に、自己中心的、他罰的、依存的な人に多いようです。他人や物事が自分の思い通りに動かないことに苛立ち、ストレスを抱えやすいからでしょう。
(3) うつ病は無理して動いた方がよくなりますか?
いいえ、逆効果です。うつ病の人は脳内の神経伝達物質の不調により、健康なときのように動くことができません。
確かに、外で太陽光を浴びたり有酸素運動をしたりすると、神経伝達物質が整うことが知られています。ただ、まだ体がつらいうつ病の急性期に無理して運動したり働いたりすると、ストレスによってかえって神経伝達物質の働きが乱れ、症状が悪化してしまう恐れがあります。
うつ病と診断されたら、まずはゆっくり体を休めることが大切です。そして、ある程度回復してきた段階で、少しずつ散歩したり、買い物に出たり、短時間働いたりしながらリハビリを行ないます。
ただし、自己判断は危険なので、リハビリは主治医と相談しながら行なってください。
(4) うつ病は治りますか?
はい。うつ病は、途中で生きるのをあきらめさえしなければ治る病気です。ただ、人によって回復までの期間はさまざまです。
早期のうちに受診して治療を始めれば、半年程度で回復する人が多いです。しかし、治療開始が遅れて重症化したり、途中で無理を繰り返したりすると、何年も治療に費やさなければならないこともあります。気長に病気を付き合いましょう。
(5) 医者や薬に頼りたくありません。寝ていればうつ病を治せますか?
ごく症状が軽いうちなら可能でしょう。しかし、体が動かなくなったり、強い自責感情や不安感が襲ってくるような症状が出ている場合には、ただ体を休めるだけでなく薬その他の医学の力を借りることで回復を確実にします。
薬が脳に作用することや副作用を起こすかもしれないことなどが心配かもしれません。そのような不安についても、ぜひ主治医に話をしてみましょう。
うつ病になった人は、脳内の神経伝達物質が調和を乱している状態です。そのため、一日中寝ていたとしても、脳はゆっくり休むことができません。自分一人の力でうつ病から回復するのは至難の業なのです。
(6) 経済的に苦しいですがどうしたらいいですか?
うつ病で十分働けず、生活が苦しかったり、治療にお金をかけられなかったりという方がいらっしゃいます。そのような方のために、生活保護以外にもさまざまな支援制度が用意されています。たとえば、
- 自立支援医療制度
- 特別障害者手当
- 障害年金
- 特別障害者給付金制度
- 生活福祉資金
- 重度心身障害者医療費助成制度
詳しくは、受診している病院の医療ソーシャルワーカーや、市町村役場の福祉部門、あるいは県の精神保健福祉センターなどに相談してみましょう。
(7) うつ病と適応障害の違いは何ですか?
うつ病も適応障害も似たような症状が出る病気です。うつ病が原因不明なのに対し、適応障害は原因となるストレスがはっきりしているという違いがあります。
- 適応障害はストレス源から離れると症状が軽くなる。うつ病はストレス源から離れてもなかなか回復しない。
- 適応障害は環境調整や精神療法が治療の中心。うつ病は薬物療法など医学的な治療も併用することが多い。
(8) うつ状態が朝はつらくて、午後になると改善するのは怠け心のせいですか?
いいえ、仕事や勉強をサボりたいための怠け心のせいではありません。多くのうつ病の人が、午前中つらくて午後から夜に向かって症状が少し楽になります。これを「日内変動」と呼びます。
うつ病と向き合う基本姿勢

(1) うつ病についてよく知る
うつ病の原因は不明です。過剰な業務、人間関係、経済不安、環境変化などさまざまなストレスの他、遺伝や身体的な疾患、加齢なども要因に挙げられます。
原因はさまざまであり複雑に絡み合っていますが、うつ病を発症した人の脳では、神経同士が情報のやり取りをするために放出する「神経伝達物質」のバランスが崩れています。たとえばセロトニン、エンドルフィン、ノルアドレナリンなどです。
その結果、行動する活力が湧いてこなかったり、体が動かなくなったりします。また、前向きな考え方ができずに悲観的になったり、憂鬱な気分に襲われたり、不安や悲しみなどに心を塞がれたりします。
これらは脳神経の調子が崩れているためです。決して怠けているわけではありません。性格が悪いからでもありません。
うつ病についてよく知ることで、不必要に自分を責めたり、無理をしたりして、かえって症状を悪化させるのを防ぐことができます。
(2) 専門家のサポートを受ける
うつ病は脳神経の病気ですから、気合で治るわけではありません。医師の治療を受けましょう。
うつ病の専門医は精神科です。他に、心療内科、神経科、メンタルクリニックの看板を掲げている病院でも、うつ病に対応してくれるところが多いです。
また、出された薬は指示通りに飲んでください。自己判断で勝手に飲むのをやめたり、飲む量を増減させたりするのは、かえって心身の調子を崩す恐れがあり危険です。
なお、特に神経伝達物質を調整してくれる抗うつ剤は、効き始めるまでに3週間程度かかります。また、体質によって合う・合わないがあります。副作用がつらいとか、効いている感じがしないとかいう不安がある場合は、自己判断しないで主治医、あるいは薬を出してくれた薬局の薬剤師に相談しましょう。
(3) 無理をしない
うつ病を抱えた人がまず意識すべきことは、心と体を休めることです。休職後に復帰した場合でも、いきなり前と同じペースで働いたりせず、徐々に慣していきましょう。自分の限界を見極め、無理をしないことが大切です。
以前のようにバリバリ働けないことで、ついつい自分を責めてしまうかもしれません。しかし、今は心と体を休める時です。どうか自分を責めず、完璧を求めず、「できることだけやればいい」と自分に許可を出しましょう。
具体的なアクション例としては、
- 毎日、低めの目標(たとえばタスクを3つだけ終わらせるなど)を設定し、それが達成されたら自分をほめる。
- 途中で辛くなったら、適当に休憩を取る。
(4) 上司や同僚に状況を知ってもらう
職場のすべての人がうつ病について詳しいわけではありません。以前のように働けないことについて、周りからネガティブな反応を受けてしまうと、安心して働くことが難しくなります。
そこで、上司や同僚に今の自分の状態(たとえば疲れやすいとか、集中力が続かないとか、今取り組める業務量とか)を知っておいてもらうことが大切です。
職場に産業医やカウンセラーがいる場合には、その専門家から上司に現在の状態を説明してもらうとともに、業務量の調整や休暇・休憩の取り方などについてアドバイスしてもらうと良いでしょう。
企業・上司・同僚がうつ病の従業員に対してできること

(1) 受容的・共感的な姿勢
職場で精神的苦痛を感じるために従業員を支えるためには、周囲の理解とサポートが必要です。 特に、上司や同僚が適切なコミュニケーションを心掛けることで、従業員は安心感を得られます。
治そうとするな、分かろうとせよ
その際、心理学者カール・ロジャースが語った「治そうとするな、分かろうとせよ」という心構えで接することが重要です。
「治そうとするな」というのは、うつ病を良くしてやろうという思いで出関わることです。たとえば、うつ病の同僚を元気にさせよう、励まそう、前向きな考え方にさせよう、気合を入れようとすることですね。それは控えましょう。
代わりに「分かろうとせよ」。何を? 相手の気持ち(及び、そう感じる理由)です。うつ病の患者さんが感じる気持ちは、健康な人には「え?」とびっくりするほど独特で、非合理的で、破壊的です。
しかし、「そんなふうに感じるのは変だ」と責めないで、「なるほど、そんなふうに感じているんだね」「それはつらいね、苦しいね」と受け止め、寄り添いましょう。それだけで、ほんのちょっとだけですがうつ病の患者さんは心が楽になります。
(2) 傾聴
話を途中でさえぎらないで、最後まで耳を傾けます。その際、次の3つのポイントを意識しながら聴きましょう。
- 相手を優しく見つめながら聴く。
- うなずきながら聴く。
- 「うん」「ええ」「はい」「そうー」「なるほどなー」など、何かしら声を出しながら(相づちを打ちながら)聴く。
この3つがそろわないと、相手は「ちゃんと聴いてもらっていない」と感じてしまいがちです。
(3) フィードバック
うつ病の患者さんがつらそうに見えるとき、「大丈夫?」という尋ね方をすると、真面目な人が多いうつ病患者さんは「大丈夫です」と返しがちです。
「とてもつらそうに見えるよ」とか、「少し思考がこんがらがって、動けなくなっている感じだね」と優しくフィードバックします。そして、「だから、少しの間休憩しようか」などと休息を提案すると良いでしょう。
★話の聴き方について、より詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
うつ病の人に避けた方が良い関わり
励まし
相手を元気づけたくて「がんばって」などと励ますのは避けた方が無難です。というのは、うつ病の人はエネルギー切れの状態なので、がんばりたくても体や頭が動いてくれません。ですから、励まされると「これ以上どうがんばればいいんだ」と、かえって心が追い詰められてしまうのです。
つらい気持ちを聴き取って、「つらいよね」「苦しいんだね」と寄り添うような言葉かけをすると良いでしょう。
あるいは、すでに十分がんばっていることを認めて、「がんばってね」ではなく「がんばってるね」という伝え方をしてみましょう。
叱咤
「そんな弱いことでどうする!」「引きこもっても何にもならないぞ!」と叱っても、うつ病の人には効果がありません。むしろ心がセンシティブになっているため、ふがいない自分を責めてよけいに落ち込ませることになります。
むしろ「ゆっくりで大丈夫だよ」と、うまく動けない現状を受け入れ、今はその状態でOKなのだということを伝えるような言葉かけを心がけましょう。
アドバイス
「前向きな考え方をしてみよう」「外出して光を浴びるといいんだよ」など、うつ病が改善するのに役立ちそうなアドバイスも、症状がひどいときには控えましょう。そのアドバイスを実践するエネルギーが湧いてこないため、せっかくアドバイスしてもらったのにそれを実践できない自分を責めさせることになるからです。
「直そうとするな、分かろうとせよ」が基本です。つらい気持ちを聞いて共感することが、大きな励ましになります。
休職と復職を考慮する仕組みづくり
うつ病のためにしばらく休職していた従業員が職場復帰する際には、企業側のサポートが非常に重要になります。一気に元通りの勤務時間や業務量に戻すのではなく、徐々に慣していくことが必要です。産業医や主治医など専門家のアドバイスを受けながら、試し出勤制度などの段階的な復職プランを実践しましょう。
★試し出勤制度については、以下の記事で詳しく解説しています。
うつ病に対する理解を深めるメンタルヘルス研修

「うつ病は甘えである」「うつ病はサボりたい人の言い訳である」「うつ病は前向きな考え方をすれば治る」「抗うつ剤を飲むと依存症になる」など、まだまだうつ病に関して間違った知識を持っている人がいます。
全社員に対するメンタルヘルス研修でうつ病について学ぶことによって、以下のようなメリットが生じます。
- うつ病を予防することができる。
- うつ病になっても、早期に治療・早期回復を期待できる。
- うつ病に対して無理解の上司や同僚からの攻撃や駆り立てがないため、うつ病になった社員が安心して働ける。
- 一時的に休職しても、無理なく確実に復職することができるようになる。
- うつ病を理由とした退職者を減らせる。
- うつ病でない社員にとっても働きやすく、生産性が高い職場環境になる。
私が提供する研修内容
私は、福島県須賀川市を拠点に、郡山市や福島市など福島県内、また山田・宮城・栃木など近隣県の企業で、メンタルヘルス研修の講師を務めています。うつ病に関する研修では以下のような内容を提供しています。
- うつ病とはどういう病気か
- うつ病チェックリスト
- 自分や同僚がうつ病かもと思ったときの対処法
- 話の聴き方
- こちらの気持ちや願い、提案の伝え方
- 復職支援の方法
特に話の聴き方や伝え方に関しては、具体例を交えた座学の他、豊富なロールプレイやワークショップを行なっています。実際の研修では、受講者の皆さんが楽しく演習に参加なさっています。事後の感想にも、
- 「ロールプレイのときに、自分の悩みを色々話せてすっきりした。」
- 「具体的な方法を教わったので、すぐに使えそう。」
- 「相手がうつ病の人だけでなく、顧客や家族などすべての人とのコミュニケーションに役立つと思った。」
- 「うつ病をテーマにした研修だったのに、たくさん笑いました。楽しかったです。」
といった肯定的な言葉をたくさんいただきます。
まとめ

うつ病を抱えながら働くことは、それだけで大変なストレスです。しかし、自分自身が効果的な対応をしたり、職場の人たちが適切にサポートしてくれたりすれば、個人も職場もより良い方向へ進むことができます。
うつ病に関するメンタルヘルス研修にご興味がある担当者さまは、ぜひ私を講師の選択肢に入れていただければ幸いです。まずは、以下の公式サイトからお気軽にご連絡ください。
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